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カッシング丈生誕105年【その1】『狂ったメス』/60年代のマクベス…になり得たかも? [DVDレビュー]

またまたやってまいりました、5/26、カッシング丈のお誕生日! おめでとうございます! 今日は感想とお知らせと両方書きたいのですが、ひとつの記事にするには長いので2つに分けます。

まずはこの一年に新たにリリースされたDVDの一つ、『狂ったメス』の感想です。婚約者である美人モデルのリン(スー・ロイド)の顔に、意図せずやけどを負わせてしまった外科医ジョン(カッシング)が、新奇な治療法のために葛藤しながら殺人に手を染めるという物語。原題は"Corruption"。堕落、(権力の)腐敗、「倫理的に転落すること」を指す言葉ですね。まさにそういう内容でした。「葛藤しながら道を踏み外す科学者」路線は十八番。似合います[黒ハート] 1967年の現代ものなので、時代風俗も独特です。


狂ったメス.jpg

ジャケット写真は昔のポスターらしいので貴重なのでしょうが、ファンとしてはちょっと残念……カッシング丈こんだけ?(顔もわからない!)写真のメインが主演の二人ではなく、ほんのちょっとしか出ない、台詞も役名もない女優さんというのが……しかも「この路線」を期待させるとしたら、逆にサービス不足かもと思うのですが……でも当時は充分過激だったのかもしれませんね。

音楽はジャズで好きなタイプです♪ 担当してるビル・マクガフィーはカッシング丈の劇場版ドクター・フー『地球侵略戦争2150』でも見た名前ですね。

さて、なぜマクベスに例えるかというと……もちろん夫の存在感を喰う勢いのマクベス夫人(まだ婚約者だけど)がいるからです。彼女は後半、しぶるジョンを責めて蛮行に追いやります。

顔にやけどを負ったモデル……というと外見にだけ価値を認める薄っぺらい感じがしかねませんが、彼女はその外見で仕事をしているわけで。歌手が声を失いそうになったら、画家が視力を失いそうになったら……と考えてみると、彼女の『必死さ」がもっと受け入れやすくなります。声や視力と同様、ただでさえ辛い障害になりますが、彼女はそれ以上のものを感じているはず。ただ、映画は安っぽい画面がわざわいして、そこまで想像させることには失敗しているかも。まあ「もともとそこが狙いではない」と言ってしまえばそれまでですが、構造としてはシェイクスピア的な悲劇といってもいいのでは。(後述するラストの付け足し部分を除いて、ですが)惜しい。つくづく惜しい! クライマックスの」「悲劇」を起こすあるものの描写が、映画のなかで一番チャチいので(^^;)、そこがやりきれません! あそこの画面に説得力があったらかなり印象変わったはず!

…リンから結婚すると聞いたカメラマンがそれを惜しみ、彼女に「キャリアはどうするんだ」と聞くシーンがあります。彼女は「美貌は衰えるけど結婚は永遠だわ」と言うんですが、彼女は結婚してすぐに仕事をやめる気はないです。のちに(顔の傷が回復して)復帰しようとしたときにこのカメラマンから拒否されると、無謀なことにカメラを買ってきてジョン=カッシングに撮れといいます。誰が撮ったって同じ、価値は自分にあるのだ、という自負です。

そして顔の手術をこれ以上したくない(これ以上人を殺したくない)と言ったジョンが、(その代わりに)「今すぐ結婚しよう」と言うと、「同情なんてまっぴら」と突っぱねる。ここで「おっ」と思いました。顔が命の美人モデルと婚約したジョンが、美貌が損なわれても変わらず愛してるから結婚しよう、というのは立派な態度ですが、彼女にとってはちっともありがたくない。心情がリアルです。たぶん彼女はモデルとして充分に自活していたし、結婚してもいざとなれば自活できるという対等な立場にいたはずです。ところが美貌を失って仕事ができなくなり、それを結婚して養ってあげるから、と言われるのはかなりの屈辱でしょう。しかもその原因を作った本人からの申し出です。ここらへんがうまいところで、ジョンが非道な行為に手を染めるのも、彼女が愛しいというのはもちろん(メロメロ度の表現なのか、カッシング作品では出色のキスシーンの多さ)、たぶん罪悪感が大きいのですね。

「あなたを愛してるけど、この顔の傷で思い出してしまう」というリンの台詞がありますが、それを責めているわけです。その後のきついやりとりと堂々とした感じが似合う女優さんです。スー・ロイド。実際モデルをしていた方だそうですが、ヒステリックさの基盤に堂々とした自信があるのが見える。ニンに合うのか演技がうまいのか、とても合っています。浮いてません。だんだん常軌を逸していくところをもっと丁寧に描く脚本であれば、かなりいいキャラクターになったのでは。1カットのなかで突然変わるからコミカルに見えちゃうんですよね。あと、フィックス画面に数人キャラクターをいれてやりとりさせて、編集を節約している(?)ようなところも安っぽい。全体に被写体との距離が取れてなくて、セット狭いんだろうなー、という感じです。(笑)
でもこの安っぽさは役者さんのせいではないので、映画にとって彼女の存在感は貢献大だと思います。今回のリンはあまり深みはないキャラクターですが、著名外科医のジョンと結婚するのは「肩書ではなく人格が理由」と言ってますし、先ほどの自立心もあり、女性目線で「許せる」キャラクターです。

カッシング丈はいつも通り、安定の「ピーター・カッシング」ですが、この映画ではどこまでも「まともな紳士」なのが物足りないかもしれない。(笑)「本音を言えば、自分が開発した治療法を倫理を踏みにじっても試したい」という要素があってほしかった、と思うのはそのためかもしれません。そのへんはスー・ロイドに譲った感じでしょうか。マッドさで彼女のほうが上回って見えるように。バランスをとる上ではそれがいいのでしょうね。受ける演技をしている感じです。計算されているのかも。
でもそれが、ポスターなんかで作ろうとしているイメージと違うので見た時に違和感が出ますね。日本版よりもっと露骨な海外盤のジャケットはこんな感じ。歌舞伎っぽいですね! ああ、まんま『女殺油地獄』だ!(笑)


でもカッシング丈がこんな見得切ったり、こんな露出度で女優さんが映ったりする絵ヅラは映画にはないです。(笑)これを期待した人には詐欺でしょう。自分には幸いでしたけど……並べると日本版のジャケットはまだマシなのかもしれませんね。(笑)
そしてラストに……ちょっとしたトリッキーな編集がされているのですが、素直に受け取るとまさかの(以下白文字を入れます。ネタバレOKな方はドラッグして反転させてください)夢落ち……? 疲れて怖い夢見ちゃっただけ?(笑) …そしてカッシング丈のアップの静止画像で終わるのが、彼の妄想の異常さと不吉な未来を暗示しているのか……? …とも思えるのですが、とってつけた感じでどうもうまくつながらないです。「えー、それはないよ」という感じしかしなくて。かといって、これがなければいいかというと、それもまあ、小粒になってしまいますね。変化球な後味を残そうというのは敢闘賞でしょうか。


総じて「惜しい」ところを多く感じた作品でしたが、埋もれていたカッシング作品が新たにリリースされるのは嬉しいことですね。できれば販売オンリーではなく、レンタル版を出して、販売版には特典つけてほしかったです……!(チャプター画面や予告編すらついてない!(涙))



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Tales from the Crypt (1972) [DVDレビュー]

久しぶりの更新です。祝ハロウィーン!ということで、正統派(?)ホラーを。アミカス・プロダクションのオムニバスものの一つ"Tales from the Crypt"、VHSの邦題は『魔界からの招待状』です。(残念ながら日本ではDVDになっていませんね。最後にYoutubeに上がっているものを貼らせていただきますが、ぜひぜひ字幕付きソフト出していただきたいです~!)

ソフトがUKのアマゾンにしかないようなので、リンクはそちらです。ジャケット写真があんまりなのでテキストにしておきます。(笑) Tales from the Crypt (1972) 代わりに麗しいカッシング丈のキャプチャ画像をどうぞ。

P1020808.JPG

 

ピーター・カッシングはこの中の"Poetic Justice"というエピソードに出演しています。主役ではありませんが、カッシング丈の演技がとにかく素晴らしいです!というわけでエピソード全体のラストは伏せますが、カッシング丈の出番についてはほぼ最後まで書いてしまいますので、ご了承下さいませ。

役は「妻を亡くした貧しい老人」アーサー・グリムズダイク。実生活で奥さまを亡くした経験を生かした形で掘り下げ、元の脚本にはなかったディテールが加えられました。ご本人は、役についてこう語っています。

「このグリムズダイクという目立たない男は、この世での妻という実体を失って、どう生きたらいいかわからなくなっている。そして妻の霊とつながろうとする。この役の行動原理はそれがすべてだ。これは監督と私のなかに共通してあったもので、役とのこういうつながりが、このキャラクターを成功させた一因だと思う。私には彼がどう感じたかわかるんだ」
("Peter Cushing: The Gentle Man of Horror and His 91 Films"より拙訳)

1973年に、フランスのファンタジー映画祭(French Convention of Fantasy Cinema)で上映され、この役でLicorne d'Or Awardという賞の最優秀男優賞を贈られています。ご本人は自伝で、「(監督との共同の工夫で)この賞を受けたと申し上げることを誇りに思う」と書いています。授賞式ではフランス語でスピーチをし、感極まって涙を見せたとのことです。

グリムズダイクは心優しい老人で、犬や近所の子供たちとの交流を心の支えにしています。しかし裕福な若者が陰湿な嫌がらせで子供らを遠ざけ、犬も取り上げ、独りぼっちにさせます。さらにひどいこともします。老人はそれに耐え切れず、自殺してしまいます。若者はまさか死んでしまうとは思わなかったようですが、老人が死んだ一年後の日、老人が墓からよみがえり、若者はしかるべき報いを受けることになります――。

(鉛筆描きで力尽きましたが(^^;)、画面的にも印象的な墓場のシーン)
tales rfom the Crypt のコピー.jpg

タイトルのPoetic Justiceは、「因果応報」「勧善懲悪」といった意味。このオムニバスそのものが、まさになにか後ろめたいところのある人たちが思い知らされる、後悔してももう遅い――という内容ばかりです。

…それにしても、この一編は着地点が多少はずれた感があります。あの老人が、ああいった形で復讐するとは思えなくて。第一、あの嫌がらせを誰がしたかは知らずに死んだはず……。だから復讐というより「人知の及ばない力が裁きを下した」、という感じがします。神様だかなんだか分からないけれど、その力がグリムズダイクの体を使って容赦ない裁きを下したと。(一年経ってあれだけ原型とどめているのもすごいけれど、まあ人外の力の作用ということで(笑))

たぶん元の脚本の見せ場はショッキングなラストで(ここは伏せます(^^;))、「意地悪な若者が残酷な報いを受けた怖い話」なんだと思います。…しかしカッシングの演技があまりに素晴らしいばっかりに(笑)、「いじめ殺されたかわいそうな老人の話」の前に、メインの話がかすんでしまった気がします。(色眼鏡?(笑))これは皮肉な意味では失敗とも言えますね(笑)。でも、グリムズダイク老人の鬼気迫る哀れさがそれを気にさせない仕上がりであります。

 

元のスクリプトでのこの役については、自伝と別のインタビューで言われてることがちょっとちがうんですが(記憶違いもあるんでしょうね)……自伝のほうでは「台詞は全部独り言」、インタビューでは「台詞さえなかった」とあります。どちらにせよすごく小さな役だったんですね。自伝では、最終的にできたものは「実質的にすべてアドリブだった」と書かれています。

最初はこの役ではなく、次のエピソードWish You Were Hereの夫役のオファーで、カッシング自身が希望して変えてもらったそうです。改善されたこの老人役は、完全に主役を食ってしまいました。一人暮らしで、先立った妻の写真と向かい合って食事をして、夜中にウィジャボードで妻の霊と交信(少なくとも本人はそう信じている)します。こう書くとすごくエキセントリックなんですが、昼間の顔、特に子供たちに見せている顔はまったくの「やさしくて愉快なおじいさん」。仕事であるゴミ収集で拾ったおもちゃを直して子供たちにプレゼントしたりするので、彼を慕って毎日近所の子供たちが遊びに来ています。実生活ではお子さんなはなかったカッシング丈ですが、子供たちと遊ぶシーンのほほえましいこと…。見ていて和んでしまいます。

それでも一瞬、ストーリーとは関係なく、ある意味で鳥肌が立つところがありました。それは、子供に奥さんの写真を何気なく見せるところ。さりげなくこう言います。

「妻の名前はヘレン。メアリー・ヘレン・グリムズダイク。いつもヘレンと呼んでたんだ。いい名前だろう?」
"My wife's name was Helen. Mary Helen Grimsdyke. I always called her Helen. It's a nice name, isn't it?" 

…言うまでもなく、「ヘレン」は実生活で先立たれた奥様の名前ですよね。しかも「実質的に全部アドリブ」って……。(涙)

カッシング丈が「この役なら感情移入できる」と希望した、というのがもう、たまらなくて。そして、こんなオムニバス・ホラーなんて「B級」で片づけられる映画で、心から感情移入した演技をしていたなんて。『ブラッディ ドクター・ローレンスの悲劇』もそうなんですが、この方は奥さんが亡くなったあと、よくこういうことをしていますよね。ある意味セラピー代わりなのかもしれませんが……。でも一方で、あくまでプロだという側面も感じるんです。現に、この作品では(『ブラッディ…』のときと違って)ヘレンさんの写真を使わなかったのは、「ミスキャスト」だったからだと自伝で書いておられます。単に公私混同しているわけではもちろんないんですよね。

台詞に頼らない小道具での表現もいろいろ工夫があります。グリムズダイクが奥さんの写真の前にしょぼい野の花を、それも花瓶じゃなくて、なにかの空き瓶で供えているところなど…キャラクターが貧乏なことや、それにも関わらずこういう心遣いをかかさないこと、奥さんへの思いの強さなども伝わってきます。これがあとのシーンでは、枯れた花で時間経過を表したりもしています。

自伝には老人が首を吊った後にカメラがパンダウンする、と書いてあるんですが、本編ではパンダウンはなく、(妻の写真は映るものの)すぐ葬式のシーンにつながってます。カットされちゃったんでしょうか。でも、読んでいてすごくイメージの豊かなシーンなので、ご自身がそのシーンについて描写した文章を引用させていただきます。

「グリムズダイクが首を吊ったところで、フレディーは静かに揺れている私の体から床へとカメラをパンダウンさせた。しおれた小さな花束が、痛々しい花輪のように落ちている。周りには彼の愛する妻の写真(を入れていた写真立て)の割れたガラス。これらは彼が死んだときに、彼の手から落ちたのだ」
(自伝合本"PeternCushing: An Autobiography and Past Forgetting"より拙訳)

ほんとに、この方の名演技ゆえにストーリーとしてはバランスが破綻しているとは思うんですが(^^;)、この演技を堪能するだけで価値のあるエピソードです。

"...His 91 Films" に載ってる犬とのツーショット写真もすごくかわいいです♪ こういう動物がらみも、カッシング自身のゾンビメイクも珍しい。そういう意味でも貴重な一本だと思います。

 

"Poetic Justice"は32分頃から。

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『ゾンビ襲来』(1973) [DVDレビュー]

久しぶりに過去記事発掘でない感想文です。(笑)ピーター・カッシングクリストファー・リー共演の未見作のなかでもひときわ気になっていた一つ。偶然TSUTAYAの検索機で見つけて(まさかこんなものがレンタルになっていたとは!)、店頭にはなかったので取り寄せしてもらいました。ええと……ゾンビは出ません。(笑)たぶんこの時代ゾンビが流行っていたんでしょうね。原題はThe Creeping Flesh (這い回る肉)です。
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大ざっぱな印象をまとめると、古典風の兄弟葛藤劇をベースに、十九世紀イギリス大衆小説のあっちこっちのディテールと、二十世紀B級SFトンデモホラーの設定を混ぜて、ちょっと火にかけてみました!という感じ。いやもう、話盛りすぎっ!!(喜)この素材を「まじめに」撮ってくれてるのが貴重です!

カッシング鑑賞目線では、美老人的美貌絶頂期(当社比)の1973年作品。ほんとに、とんでもなく、信じられないほど美しいです!研究に夢中になってるレトロな科学者紳士ぶりやつれ顔嘆き演技泣きと追いつめらた恐怖の表情、軽い気狂いまで見られて大満足です。さらに雨でずぶ濡れにまでなってくださるサービスぶり!水もしたたる枯れ美老人、たまりません♪十九世紀末の話なので、鼻眼鏡ヴィクトリアンな衣装も素敵です。この方の役には珍しいノーフォーク・ジャケット(よくホームズのワトスンなんかが着ている、アウトドア系の上着)の姿が見られるのも貴重です♪

…前置きが長くなりました。(笑)おもな舞台になる年代は1893年、カッシングのお役は十九世紀の人類学者(と思われる)エマニュエル・ヒルダーン。(人類学…かな?「人類の起源」とかでっかいテーマを追いかけてるようです)
リーはなんと弟役!と本で読んでいたので、萌えまくりつつも「に、似てねえっ(^^;)」とツッコミいれてたんですが、異母兄弟という設定でした。それなら納得です。(笑)精神療養所なるものを経営しつつ(昔風に癲狂院、というほうが近いですかね。患者を牢屋みたいな部屋に閉じこめています)、研究もしているのですが、この研究が…患者を使って実験してるので精神疾患の原因究明、らしいのですが、なぜかフランケンシュタインばりやら心臓やらの人体パーツを水槽のなかで生かしているカットが入ります。つながり不明。(笑)当のリーの過去の役とオーバーラップして笑えます!

さて、お話は…エマニュエルがニューギニアで巨大な原始人の骨を発掘して帰国。この骨がとある条件下で肉が再生するというトンデモなプレデター(?)で、タイトルロールがこれにあたります。(なので、「いわゆるゾンビ」のイメージではないですね)
家では一人娘が留守を守っていますが、なぜか死んだ母の部屋には入れてもらえず、箱入り娘な生活をさせられています。母は死んだと聞かされていますが、じつはエマニュエルの妻は元踊り子で(ここでちょいと「なんでやねん!」感が(笑)。ありうるけどなんかとーとつで…いや、回想シーンを見るといろいろあったようです…)、弟の精神病院に収容されていたのです…。精神疾患が遺伝性だと思われていた時代で、エマニュエルは娘にそれが遺伝している可能性を恐れます。その思いが、あとでトンデモ原始人の研究につながるという力技!(よく考えるとなかなか練られた脚本です!無理矢理だけど!)

エマニュエルは偶然再生した原始人の肉から血液を採取し、その中にマックロクロスケみたいな細胞を発見。これが生物にとってのあらゆる「悪」(evil)の根元、というばかでっかい話になります。彼はこの発見を生かして人類を救済しようと思い立ちますが、はたしてその結末は…?!
(この「突然すぎる壮大設定」「原始人再生」テーマは、別のカッシング/リー共演作『ホラー・エクスプレス/ゾンビ特急“地獄”行』をホーフツとさせますですね!思えばあちらは前年1972年の公開なので、続けざまに撮られた映画ですね)

一方、弟は兄の実績に嫉妬してる、という緊張感のある関係。リクター賞とやらを巡り、兄弟はライバルでもあります。兄への愛情はまったく感じられないものの、正気を失った兄の妻を病院で預かり、経済的にも兄を援助していたらしく、兄は弟に対して立場が弱いです。預かっていたエマニュエルの奥さんが死に、それを伝えるシーンもリーの目はひたすらクール。彼も自分の研究でマックロクロスケ(仮名)を発見しており、のちに兄の弱みを握って脅迫するまでに敵視するようになります。表面的には紳士なので敵役(?)としてはマイルドですが、兄弟だけに独特の確執萌えが!こんなシチュエーションをこのお二人で見られるなんて♪

惜しむらくは、タイトルロールのゾンビもどきのほうがメインなので、おいしい確執の扱いがいまいち小さいことです。これを前面に押し出して、兄弟の精神的葛藤をもっと描き込んだら一段と萌えたと思うんですが!お膳立てはできてるだけに惜しい!!とにかくクリストファー・リーの冷淡で硬質な弟カッシングのもろさが感じられる兄の対照がグーです☆

…精神病院からの患者脱走やらなにやら、めまぐるしくお話は転がります。今の目で見ると詰め込みすぎてなんじゃこりゃという感じですが、味わいとしてはディケンズの物語みたいなもの、と思えばそう浮いてもいないと思います。ただ、そこにB級SFホラーな要素が持ち込まれてるのが異質なだけで。

どこかで退屈って感想をみましたが、わかる気がします。ゾンビ出ないし、タイトルで手にとった人には「なんじゃこりゃ」で当然だと思います。(笑)でも個人的にはまったく退屈しませんでした!

『がい骨』(1965)に出てきたのとそっくりな、モンスター「目線」カメラでカッシングを追いつめてくれるのですが…監督が同じフレディ・フランシスでした。撮影監督としてアカデミー賞を獲った方で、ハマードキュメンタリーのインタビューでもビジュアルへのこだわりを語っていらっしゃった監督。コンナ題材ですが(笑)、ヴィクトリアンな内装と衣装、その色と配置で、絵のように美しいカットがたくさん見られました。さすがです。それと「原始人」の骨も、この時代の小道具としては上出来の部類だと思います。肉再生シーンの特撮も、今時のCGにはない味わいが。(でもカッシングが切断したモンスターの指を焼いてるとこは、フランクフルトを火であぶってるようでなんだかおいしそうでした…(笑))

エマニュエルの「死んだ妻」へのトラウマめいた哀惜は、カッシングが実生活で奥様を亡くされて間がない時期の作品であることを思うと、複雑なものがあります。自分が美しいと感じる「やつれ」はそのせいなんですよね…なんとも申し訳ない気持ちになります。でも本当に、この時期のカッシング丈は美しいとしか言いようがありません……。(もう少しお若い時は「かっこいい」とも言えるんですが、この時期以降はひたすら「美しく」見えてしまう(^^;))
娘役の方は細面で、頬骨の感じがカッシングにちょっと似ていて、もしピーター・カッシングにお子さんがいたらこんな美人だったかも、と思える雰囲気でした。

モンスター等を「まんま」では見せない編集だったら、もう少し印象を「大人向け」に仕上げられたんじゃないかな…なんて可能性も感じる作品でした。でもそうなると「B級ホラー」の味わいはなくなってしまうんですけどね……。(笑)
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セル版DVDは、検索してみたところ日本ではボックスのみだったようです。(クラシック・モンスターズ コレクション)こういうものは普通レンタルにはならないように思いますが、ツタヤ扱いがあってラッキーでした。未見でカッシングファン、もしくは美老人好きの方、機会があったらぜひ。 あの美しさは見て損はありません[黒ハート]


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Asylum(1972) [DVDレビュー]

(またもサイトの塩漬け記事からの救出です。ちょうど昨夜見直したので…) 


(残念ながら、三本セットのAmicus CollectionはAmazon.JPでの扱いがないようですが、ジャケットが素敵なので(笑)UKストアのリンクを張ります。もしこちらからご購入になる場合は、リージョン等ご注意下さい)

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輸入盤のアミカス・プロダクション制作ホラー3本入りボックス、AMICUS COLLECTION。いずれもピーター・カッシング出演作で本邦未DVD化なんですが、目当ては内容でなく、写真が素敵だったのでジャケ買いしたものです(笑)。VHSが出たときの邦題があんまりなので、なかなか食指が動きませんでした(笑)。そのうちの1本、『Asylum』の感想です。(VHSの邦題は『アサイラム/狂人病棟』) 。

 …とある精神病院に、新任の医師がやってきます。出迎えたのは車椅子の医師。じつは院長が発狂して自分を襲ったため、患者として二階の病室に隔離されていると言います。数人いる患者のなかから、どれが院長かを当てたら合格、という話になり(この時点でなんでやねん、なのですが(笑))、新任医師は二階へ…。二階には病棟担当の看護師が一人いて、医師を病室へ案内します。そして患者一人一人の妄想話につきあいつつ、どれが院長かを見抜くことに…。 この「患者一人一人の妄想話(あるいは現実に起こったのか?)」がパーツになっているオムニバス作品で、『世にも奇妙な物語』みたいな感じでした。最後には全体としてのオチもつきます。

名前が一番最初にクレジットされていたので期待していたピーター・カッシングは、じつはそのうちの一つのエピソードに出演していただけでした。しかも主演ではないのですが、息子を亡くしたショックで魔術に傾倒した紳士という役で、なかなか哀れでもあり、いい役でした。思いつめた表情がたまりません1972年作品なので、やはり老け具合が絶妙ルックスにメロメロです。(笑)

しかし拾い物は別にもありました。まずは、ホラーでカッシング狩り(笑)を始めてから存在を知って惚れた、ジェフリー・ベイルドン。IMDbによると、「ドクター・フーを演じた唯一のホモセクシュアル俳優」だそうです。(ただしオーディオドラマで。実写はなぜか降りたらしい)これを見てからさらに腐女子株が上昇(笑)。看護師役なのですが、これがとってもおいしい役でした!この方は『ドラキュラ』ではヴァン・ヘルシングの執事役、『フランケンシュタイン・恐怖の生体実験』警察医役、ピーター・セラーズ版の『カジノ・ロワイヤル』では…などをやってます。金髪とちょっと皮肉な表情が印象的な、いかにも英国な感じのおじさま♪今も健在でご活躍中らしいです。(追記・書いた当時。でも改めてIMDbを見てみても亡くなったとは書いてなくて、2010年の出演作までかいてあります。1924年生まれなんですが…1922年生まれのクリストファー・リーが現役であることを考えると、別に不思議でもないかも。すばらしいですね、英国じいさま俳優さんたち…!)
あ、今プロフィールを見たら、グラナダ版ホームズ『ブルース・パティントン設計書』にも出ていたらしいです!うわー見直さないと!)(追記・これはその後見ました!設計図を保管していた事務所のシーンで出てくる方です。若い頃の面影あるある♪)

ほかに患者の一人でなんとシャーロット・ランプリング『愛の嵐』以前で、まだ美少女という感じ)、ハーバート・ロム(ピンク・パンサーシリーズでクルーゾー警部の上司をやってました)など。ほかにも名前がわかりませんが、「絶対見たことある…」というヒトがいろいろ。なんせオムニバスなので出演時間は短いものの、なかなか豪華だと思います。 オチは書けませんが…まあ、いろんな意味で『世にも奇妙な物語』でした。今見ると怖いというより笑えるところも多いですが、俳優陣のマジな演技はちょっと豪華なオモチャ箱ってな感じです。

…邦題のトホホっぷりでB級おバカホラーを想像していましたが、予想よりはちゃんとした作り。設定は穴だらけだったりムリヤリだったりするんですが、「わかってて手を抜いて悪ふざけしてる」のと、「その時代の精一杯」というか、それなりにきちんとやろうとしているのとの違いでしょうか。あるいは出演者の平均年齢が高いからか…ツッコミいれて笑えるシーンでも、「なんか贅沢」な感じがします。英国の俳優の層の厚さ、こんなところにも出るんですね。「こんな映画」でさえ、こんなに質の高い演技が見られるんですから。 

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Asylum [DVD] [Import] 日本のアマゾンにも単品の輸入盤が出ているようなので、リンクを張っておきます。日本語字幕つき、出してほしいものです。生誕百周年のお誕生日も間近ですし…!


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『The Flesh And The Fiends』(死体解剖記)(1959) [DVDレビュー]

(サイトの奥に塩漬けになっていた記事の救出再掲で、UK版DVDを購入したときのレビューです(^^;))


(日本のAmazonで扱いがないので、リンクはUKストアです。PAL版ですのでご購入の際などはご注意下さい)

隠れた傑作かも!/『死体解剖記』

ちょっと鑑賞してから時間が経ってしまったんですが、ピーター・カッシング出演作で購入した『The Flesh And The Fiends』(VHS邦題『死体解剖記』)の感想です。

1959年のモノクロ作品ですが、見出しに書いたとおり、これは隠れた傑作かも!と思いました。お話は実話を元にしています。時は十九世紀初頭。エジンバラで解剖学を教えているロバート・ノックス博士が、バークヘアという二人組から解剖用の死体を買っています。この二人がじつは墓荒らし。火葬ではないので、埋葬されたばかりの死体を掘り出しているのです。新鮮であるほど高い値がつくことから、二人は次第に身よりのないホームレスなどを殺して「納入」するようになり、それが露見して逮捕。じつは博士も死体が自然死によるものでないことに気付きながら買っていた・・・というもの。
ノックス博士がピーター・カッシング、二人組のうちの一人ヘアがドナルド・プレザンスでした。(この人が出ているとは知りませんでした。チャッキーみたいな顔が怖い!)

このDVD、英語字幕さえないのがちょっと困るのですが、以前図書館で借りて読んだイギリスの犯罪史の本にバークとヘアの話が出てきたので、ストーリーは問題なく追うことができました。本のほうでは、絞首刑になった犯人は自ら解剖用に献体されるはめになった・・・という落ちがついてたと思います。映画のなかでも、刑を執行される前に犯人が神父さんか牧師さんかになにか言う場面があって、そのへんに関連したことを言っていたようなのですが、充分に聞き取れませんでした。(^ ^;)

「傑作かも」というのは、これが単なるホラーサスペンスではなかったからです。ジャケットやコピーはホラーとして売ろうとしていて、カッシングも片目がつぶれた、少し不気味な顔になっています。このジャケット写真を見ると、博士が悪の権化のように見えるのですが、そこは複雑です。

博士は出所の怪しい死体を買いますが、医学教育のためには必要なことと割り切っています。墓荒らしから死体を買っていると噂になっているのか、医学協会らしき組織の仲間からも、バークとヘアが捕まる前から何やら責められています。(推測ですみません、せりふが聞き取れないのです(^ ^;))博士は罪悪感など見せず、非難を軽くいなしてしまいますが、のちに自分の行為の意味を思い知って苦しむ場面があります。

バークとヘアが逮捕され、ノックス博士を非難するデモ行進も起こります。医学協会にも呼び出されてつるし上げられますが、それでも堂々としている博士。その帰り道、浮浪児の少女に小銭をねだられて、持ち合わせがないのだとやさしく言います。でも家まで来るならあげられるよ、と。(ようするに、根はやさしい人物だというシーンです)
しかしこの小汚い女の子は「No thank you.」と断ります。ここでのせりふも完全には聞き取れないのですが、「あなたがドクター・ノックスだったら怖いもの」みたいなことを、たぶん言われています。(あるいはノックス本人だと知ってて、ついていったら解剖されちゃうもん、とか言ってるのか?)そしてぱっと走り去ってしまいます。

ここで初めて、ノックスは愕然とした顔をするのです。うまいなあ、と思いました。理詰めでいくら責められても自分を正当化できるけど、こういうことで感情が動いてしまうという…。

最後に博士は、講義の前に学生たちにスピーチをするのですが・・・そこが全部聞き取れたらなあ。シーン自体、博士が一番非難されていたときには学生がほとんどいなくなって、そのあとで学生たちが戻ってきた、という感動的なシチュエーションです。講義のシーンは何回かありましたが、朗々とした口調に聞き惚れました。

バークとヘアが被害者を殺すシーンなど、かなりショッキングだったりするのですが…(モノクロだし、今のホラーと比べるとそれほどすごい映像ではないんですが、なぜかすごく怖い。やってることの意味が怖いんですよね。文字通り「ぞっとする」シーンです)、そういうエジンバラの貧民街でのセンセーショナルなドラマと同時に、ノックス博士の周りで論議される、医学の両義性、原罪性やリスクもテーマになっています。臓器移植が問題提起している今の時代にも、充分訴えるところがあると思います。
ほかに ノックスの教え子と貧民街の女性、別のノックスの弟子とノックスの姪の恋愛なんかも盛り込んであります。

…というわけで、このノックス役、フランケンシュタイン系統のキャラクターではありますが、紳士的な態度の下に隠れた葛藤がよりリアルで、カッシングのあたり役の一つではないかと思いました。
(フランケンといえば、足の不自由そうな浮浪児役で出てきたヒトは、フランケン一作目で、思春期のフランケンシュタインをやってたヒトだと思います。医師仲間の一人は、やはりフランケンで食堂のオヤジさんをやってたヒトでした。見知った顔が出てくると、「これは映画なんだから」と思い出せて、なんか安心します(笑))

DVDには、イギリス公開版と、より刺激的なシーンが一分ほど追加されているというヨーロッパ公開版が収録されていました。それに予告編と、アメリカ公開版のオープニング、公開時の広告画像など。なんとなくマニアックに充実していて「やっぱり『隠れた傑作』扱いなのかも」、と思わせます。日本での未DVD化はほんとに残念!ぜひぜひレンタルで見られるようにしてほしいですー!!

 


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