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カッシング丈生誕105年【その1】『狂ったメス』/60年代のマクベス…になり得たかも? [DVDレビュー]

またまたやってまいりました、5/26、カッシング丈のお誕生日! おめでとうございます! 今日は感想とお知らせと両方書きたいのですが、ひとつの記事にするには長いので2つに分けます。

まずはこの一年に新たにリリースされたDVDの一つ、『狂ったメス』の感想です。婚約者である美人モデルのリン(スー・ロイド)の顔に、意図せずやけどを負わせてしまった外科医ジョン(カッシング)が、新奇な治療法のために葛藤しながら殺人に手を染めるという物語。原題は"Corruption"。堕落、(権力の)腐敗、「倫理的に転落すること」を指す言葉ですね。まさにそういう内容でした。「葛藤しながら道を踏み外す科学者」路線は十八番。似合います[黒ハート] 1967年の現代ものなので、時代風俗も独特です。


狂ったメス.jpg

ジャケット写真は昔のポスターらしいので貴重なのでしょうが、ファンとしてはちょっと残念……カッシング丈こんだけ?(顔もわからない!)写真のメインが主演の二人ではなく、ほんのちょっとしか出ない、台詞も役名もない女優さんというのが……しかも「この路線」を期待させるとしたら、逆にサービス不足かもと思うのですが……でも当時は充分過激だったのかもしれませんね。

音楽はジャズで好きなタイプです♪ 担当してるビル・マクガフィーはカッシング丈の劇場版ドクター・フー『地球侵略戦争2150』でも見た名前ですね。

さて、なぜマクベスに例えるかというと……もちろん夫の存在感を喰う勢いのマクベス夫人(まだ婚約者だけど)がいるからです。彼女は後半、しぶるジョンを責めて蛮行に追いやります。

顔にやけどを負ったモデル……というと外見にだけ価値を認める薄っぺらい感じがしかねませんが、彼女はその外見で仕事をしているわけで。歌手が声を失いそうになったら、画家が視力を失いそうになったら……と考えてみると、彼女の『必死さ」がもっと受け入れやすくなります。声や視力と同様、ただでさえ辛い障害になりますが、彼女はそれ以上のものを感じているはず。ただ、映画は安っぽい画面がわざわいして、そこまで想像させることには失敗しているかも。まあ「もともとそこが狙いではない」と言ってしまえばそれまでですが、構造としてはシェイクスピア的な悲劇といってもいいのでは。(後述するラストの付け足し部分を除いて、ですが)惜しい。つくづく惜しい! クライマックスの」「悲劇」を起こすあるものの描写が、映画のなかで一番チャチいので(^^;)、そこがやりきれません! あそこの画面に説得力があったらかなり印象変わったはず!

…リンから結婚すると聞いたカメラマンがそれを惜しみ、彼女に「キャリアはどうするんだ」と聞くシーンがあります。彼女は「美貌は衰えるけど結婚は永遠だわ」と言うんですが、彼女は結婚してすぐに仕事をやめる気はないです。のちに(顔の傷が回復して)復帰しようとしたときにこのカメラマンから拒否されると、無謀なことにカメラを買ってきてジョン=カッシングに撮れといいます。誰が撮ったって同じ、価値は自分にあるのだ、という自負です。

そして顔の手術をこれ以上したくない(これ以上人を殺したくない)と言ったジョンが、(その代わりに)「今すぐ結婚しよう」と言うと、「同情なんてまっぴら」と突っぱねる。ここで「おっ」と思いました。顔が命の美人モデルと婚約したジョンが、美貌が損なわれても変わらず愛してるから結婚しよう、というのは立派な態度ですが、彼女にとってはちっともありがたくない。心情がリアルです。たぶん彼女はモデルとして充分に自活していたし、結婚してもいざとなれば自活できるという対等な立場にいたはずです。ところが美貌を失って仕事ができなくなり、それを結婚して養ってあげるから、と言われるのはかなりの屈辱でしょう。しかもその原因を作った本人からの申し出です。ここらへんがうまいところで、ジョンが非道な行為に手を染めるのも、彼女が愛しいというのはもちろん(メロメロ度の表現なのか、カッシング作品では出色のキスシーンの多さ)、たぶん罪悪感が大きいのですね。

「あなたを愛してるけど、この顔の傷で思い出してしまう」というリンの台詞がありますが、それを責めているわけです。その後のきついやりとりと堂々とした感じが似合う女優さんです。スー・ロイド。実際モデルをしていた方だそうですが、ヒステリックさの基盤に堂々とした自信があるのが見える。ニンに合うのか演技がうまいのか、とても合っています。浮いてません。だんだん常軌を逸していくところをもっと丁寧に描く脚本であれば、かなりいいキャラクターになったのでは。1カットのなかで突然変わるからコミカルに見えちゃうんですよね。あと、フィックス画面に数人キャラクターをいれてやりとりさせて、編集を節約している(?)ようなところも安っぽい。全体に被写体との距離が取れてなくて、セット狭いんだろうなー、という感じです。(笑)
でもこの安っぽさは役者さんのせいではないので、映画にとって彼女の存在感は貢献大だと思います。今回のリンはあまり深みはないキャラクターですが、著名外科医のジョンと結婚するのは「肩書ではなく人格が理由」と言ってますし、先ほどの自立心もあり、女性目線で「許せる」キャラクターです。

カッシング丈はいつも通り、安定の「ピーター・カッシング」ですが、この映画ではどこまでも「まともな紳士」なのが物足りないかもしれない。(笑)「本音を言えば、自分が開発した治療法を倫理を踏みにじっても試したい」という要素があってほしかった、と思うのはそのためかもしれません。そのへんはスー・ロイドに譲った感じでしょうか。マッドさで彼女のほうが上回って見えるように。バランスをとる上ではそれがいいのでしょうね。受ける演技をしている感じです。計算されているのかも。
でもそれが、ポスターなんかで作ろうとしているイメージと違うので見た時に違和感が出ますね。日本版よりもっと露骨な海外盤のジャケットはこんな感じ。歌舞伎っぽいですね! ああ、まんま『女殺油地獄』だ!(笑)


でもカッシング丈がこんな見得切ったり、こんな露出度で女優さんが映ったりする絵ヅラは映画にはないです。(笑)これを期待した人には詐欺でしょう。自分には幸いでしたけど……並べると日本版のジャケットはまだマシなのかもしれませんね。(笑)
そしてラストに……ちょっとしたトリッキーな編集がされているのですが、素直に受け取るとまさかの(以下白文字を入れます。ネタバレOKな方はドラッグして反転させてください)夢落ち……? 疲れて怖い夢見ちゃっただけ?(笑) …そしてカッシング丈のアップの静止画像で終わるのが、彼の妄想の異常さと不吉な未来を暗示しているのか……? …とも思えるのですが、とってつけた感じでどうもうまくつながらないです。「えー、それはないよ」という感じしかしなくて。かといって、これがなければいいかというと、それもまあ、小粒になってしまいますね。変化球な後味を残そうというのは敢闘賞でしょうか。


総じて「惜しい」ところを多く感じた作品でしたが、埋もれていたカッシング作品が新たにリリースされるのは嬉しいことですね。できれば販売オンリーではなく、レンタル版を出して、販売版には特典つけてほしかったです……!(チャプター画面や予告編すらついてない!(涙))



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